「セストリエーレの最速屋がァ、なんで免許持ってねェんだヨォ!」
おかげでレンタカーを借りる羽目になった。ダッセ、俺が吐き捨てると新開は変わらず飄々としていて、形ばかりに悪いなと口にした。

「あっちじゃ最速、とはいかないよ。」
「アッソ。」

 大学の途中で新開がイタリアに渡って2年。向こうでアマチュアレースに参加しながら、コンタクトを取り続けていたプロコンチームに外国人選手の枠が空いて、今シーズンから契約選手として走ってる。
俺が有料チャンネルとネットの書き込みで知った全部だ。調子よくやっていると思っていただけに、新開からあんな電話がかかってきてひいている。俺と死にてぇって?

「……靖友は相変わらず運び屋だな。」
「ハッ!」

 だからって天国まで運んでやる義理は俺にはねェんだ。そう言いかけて、結局は口にしなかった。ここまできて、今更だ。代わりに目線で促して荷物を開けさせる。

「ダッシュボードん中。」

 俺に促されてダッシュボードの黒い蓋をあさる新開が、すぐに、内服薬の印字がされた封筒を見つけて取り出した。アルミのシートをつまんでカサカサと振って見せる。

「よく寝れる?これ。」
「俺ェ、不眠症患ってんのォ。そんで医者から出されるヤツ。」

ヒュウ、とおおげさに新開が口笛を吹いた。

「効きそうだな。」


 わざと明るい口ぶりに無理をしているな、と思った。大体こいつは臆病で、変に繊細なんだ。
ペットボトルの水で薬を流し込むのを見ていると、新開の顔が近づいて案の定キスをされた。口移しで順番に受け渡される錠剤とぬるまった水は正直飲みにくいと思ったが好きにさせた。

「靖友…靖友…。」
「窓、塞ぐ前に寝ンなよォ?」
「うん。」

 ガムテープで最後の隙間を埋めると、エンジンを掛けた。待ちかねたように新開がシートを倒して上に覆いかぶさってきて、こんなときに、俺はこいつとしたセックスを少し思いだした。

「運んでくれよ、靖友。オレを、遠くに。」

 どっかで聞いた様な台詞だ。しがみ付く新開の体温は薬のせいなのか眠りかけているからかやけに熱く苦しかった。

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