初めお前の冒険はもう終わりだと促したときジョニィはあんなに泣いたのに、嘘のようにすっと大人しく言った。「帰ろう。ジャイロ。僕は遺体も要らないし、レースの順位もどうでもいいよ。」おいおいなんだよそりゃあ、と俺は思った。今までと言ってることがまるっきり違う。ただ頑なで必死なのはいつものジョニィだった。オーライ、お前のしたいとおりにしようぜ。そう言って俺たちは馬を引き返してアメリカを逃げ帰った。

 それで3ヶ月は経ったのか。俺達は安寧に生き延びて、ジョニィは相変わらずちっとも歩けやしないし、新聞によれば俺が恩赦を求めた少年は牢獄で風邪をこじらせて死んだ。

「君の為に僕は歩けないんだ。」
「はいはい。」

ジョニィはここ最近では初めて会った頃みたいに生意気で我侭で癇癪持ちだった。3日に1回くらい繰り返すようになったジョニィの台詞を俺が軽く流すとジョニィの平手が俺を打った。俺は今お前が寝冷えしないように髪を拭いて寝巻きを着せてやってるんだがな。治る見込みのない患者は大抵絶望して癇癪持ちだ。オーケイ、慣れてる。問題ないぜ。

「ジョニィ、髪を引っ張るのをやめて首に手回してくれたらベッドまで運んでやるぜ。」
「添い寝して歌もうたってよ。」
「ああ、おやすみのキスもしてやる。」

ふぅん、とジョニィは鼻をならした。それから尊大な態度で「悪くない。」とも呟いた。それから手を伸ばして俺に掴まる。身体の半分の筋肉が細りきったジョニィの体重は軽い。あまり軽そうに持ち上げると泣くから俺はジョニィを傷つけないようにある程度億劫そうに、よっこらせとか言いながら抱える。

「ジャイロ、」
「あー?」
「もう一度ジャイロに会えるなら僕はなにもいらないと思ったんだ。本当に、僕はジャイロに会いたかった。」

おい、そういうと俺が一回死んだみてーじゃねぇ?
俺は眉を顰めたがジョニィは勝手にしゃべり続けている。

「後悔してないんだ、君が一番だよ。一番大事だ。だから大統領と取引したんだ。分かってるんだけどジャイロ、八つ当たりしてごめんね。」

ジョニィはそこで目を瞑って大きく息を飲み込んだ。それで俺はジョニィが眠っちまったのかと思ったんだが、それは違ったらしい。えらく重大そうな口ぶりでジョニィは呟いた。僕は一個隣の世界から来たんだ、だと。

「ジャイロ、君のジョニィはどこに行ったんだろう。」
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