お題:どす黒い友人 制限時間:30分
留三郎の体のあちこちに黒ずんだ痣のようなものがあることに最初に気がついたのはいつのことだったろうか。
「その痣消えないね、留三郎。」
部屋を真っ二つに分ける衝立の向こうを覗きながら僕が指摘すると前掛け姿の留三郎は、覗いてんなよな、と口先を尖らせて文句を溢した。
「だって気になるじゃないか。もう二年か三年くらい見てるけどちっともよくなる様子がない。」
「保健委員長だから、ってやつか。」
「友人としても、気になってるよ。」
覗いていたのを咎めた割りに僕が重たい薬箱をよいしょと衝立の向こう側に引き摺っていっても留三郎は文句を言わなかった。
「やっぱり痛くはない?」
「痛くも痒くもねぇよ。」
「自覚症状が何もないのも嫌な感じがするなぁ。」
「なんだよ、脅かすなよ。」
留三郎はさして気にも留めないように笑った。僕からすれば、黒いものは不吉な感じがする。僕は自分で言うのもなんだけれど子供の頃からあまり運が良い性質ではなくて、悪いものを引き寄せた。
悪いものはいつも黒い色をしている。例えば足を挫く前、僕の足首にはとぐろのように黒い煙が巻きついていたし、物貰いを患う前は黒いもやが視界を塞いでいた。僕はそれを不運の暗雲と呼んでいて、僕にだけ見える悪いものの象徴としていた。留三郎の体の黒い痣は実は不運の色に似ている。
「ねえ留三郎、僕をもうあまり庇ってくれなくていいよ。」
「別にお前をどうこうしたから出来たもんでもねぇだろ。」
そうだろうか。留三郎は僕をいつも助けてくれる。どうも僕には留三郎が僕を庇う度、留三郎が黒くなるように思えるのだけれど。
ふと背中が寒くなって僕はくしゃみをした。風邪気味だって言ってたもんな、と留三郎が気遣ってくれた。
「あーあ、明日、難しい実戦演習あるんだけど。」
実習内容が書いた紙が配布されたとき、僕の紙は真っ黒だったから嫌な予感はしていたんだ。
「早く寝ろよ。そんなんじゃ実戦なんて無理だろ。いつもだって鈍臭いんだから。」
「留三郎。」
「明日の実習、俺が代われるよう先生には言ってあるんだよ。」
黒い人の形をしたものが僕の肩を力強く叩いた。きっと頼りがいに満ちた笑顔で僕の方を向いているのだろう。
僕が顔を上げたときには留三郎はもう真っ黒になってしまっていた。
留三郎の体のあちこちに黒ずんだ痣のようなものがあることに最初に気がついたのはいつのことだったろうか。
「その痣消えないね、留三郎。」
部屋を真っ二つに分ける衝立の向こうを覗きながら僕が指摘すると前掛け姿の留三郎は、覗いてんなよな、と口先を尖らせて文句を溢した。
「だって気になるじゃないか。もう二年か三年くらい見てるけどちっともよくなる様子がない。」
「保健委員長だから、ってやつか。」
「友人としても、気になってるよ。」
覗いていたのを咎めた割りに僕が重たい薬箱をよいしょと衝立の向こう側に引き摺っていっても留三郎は文句を言わなかった。
「やっぱり痛くはない?」
「痛くも痒くもねぇよ。」
「自覚症状が何もないのも嫌な感じがするなぁ。」
「なんだよ、脅かすなよ。」
留三郎はさして気にも留めないように笑った。僕からすれば、黒いものは不吉な感じがする。僕は自分で言うのもなんだけれど子供の頃からあまり運が良い性質ではなくて、悪いものを引き寄せた。
悪いものはいつも黒い色をしている。例えば足を挫く前、僕の足首にはとぐろのように黒い煙が巻きついていたし、物貰いを患う前は黒いもやが視界を塞いでいた。僕はそれを不運の暗雲と呼んでいて、僕にだけ見える悪いものの象徴としていた。留三郎の体の黒い痣は実は不運の色に似ている。
「ねえ留三郎、僕をもうあまり庇ってくれなくていいよ。」
「別にお前をどうこうしたから出来たもんでもねぇだろ。」
そうだろうか。留三郎は僕をいつも助けてくれる。どうも僕には留三郎が僕を庇う度、留三郎が黒くなるように思えるのだけれど。
ふと背中が寒くなって僕はくしゃみをした。風邪気味だって言ってたもんな、と留三郎が気遣ってくれた。
「あーあ、明日、難しい実戦演習あるんだけど。」
実習内容が書いた紙が配布されたとき、僕の紙は真っ黒だったから嫌な予感はしていたんだ。
「早く寝ろよ。そんなんじゃ実戦なんて無理だろ。いつもだって鈍臭いんだから。」
「留三郎。」
「明日の実習、俺が代われるよう先生には言ってあるんだよ。」
黒い人の形をしたものが僕の肩を力強く叩いた。きっと頼りがいに満ちた笑顔で僕の方を向いているのだろう。
僕が顔を上げたときには留三郎はもう真っ黒になってしまっていた。
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