如何にもチンピラ風情といった形姿の平山は、意外に暴力には慣れていないらしい。ひょんなことから言い争いになり、先に手が出たのは安岡だった。悪徳刑事と揶揄されるように、元々、柄の良い性質の人間ではない。
安岡は平山の負けん気の強いところを知っているから、すぐにでもやり返してくるかと思ったが、平山は衝撃でよろめいて床に座り込んだままショックを受け た顔で打たれた頬を触っている。額から上へ掻き上げて整えた前髪が一筋はらりと乱れて恨めしげな眼でこちらを見上げたのが何故か興奮を誘って堪らなかっ た。
既に気は収まっている安岡は、勇んだ振りで平山を組み敷いた。暴力の延長のように首筋に噛みついて、殆ど引き千切るようにシャツの前を開くと平山は ひゅ、と怯えたように息を吸い込んだ。どうにも過剰な反応だった。
「やめて…やめてください…!…もういいでしょ」
白い首筋を晒して平山は安岡の身体の下から這い出ようともがく。びくともしない安岡の胸に爪を立てて暴れる平山の頬を安岡がもう一度平手で張ると平山は 途端に大人しくなった。斜めにずれたサングラスの向こうで俯いた目が涙を堪えている。
「…な、んでっ、そんな風に怒るんですか…?」
詰る声は既に喉に絡んで震えていた。安岡にしてみればそれほど平山に腹を立てたわけではない。ただ弾みで振るった暴力が違った興奮を呼んだのだ。それは 別に安岡が格別サディスティックな趣味を持っていたというわけでもなく、平山が殊更そういう気を煽る種の人間であることに要因している。平山にとってはただただ迷惑な話である。
「うるせぇ、いいから黙って足を開いてろ!」
わざと乱暴にどやしつけると平山の睫毛が震えた。細い手首をきつく捉えて押さえつけると、痛いです、と弱く声が返る。安岡は膝で足を割って平山の白い スーツの股を膝頭でにじった。そうしてみたところで、平山がそこを既に固く反応させているのを知って、安岡は鼻で笑った。
「何だお前、こういうのが好きなのか」
ごくりと喉を鳴らして平山が上気した顔を反らした。
「……いえ、………いいえ、違います」
「どうだかな。みっともなくおっ勃たせやがって。」
膝に体重を乗せられてぎゃっ、と文字通りの悲鳴を、平山は上げた。緩急をつけて敏感なそこを強く、弱く、踏み潰される。逃げ出そうとする平山の腕は安岡 にしっかり押さえつけられていて、平山は苦しげにじたばたと床の上で身を捩った。額にはぷつぷつと汗が浮かんでやがてこめかみを伝って流れる。炎天下の犬 の様に短く息を切らせて平山は喘いだ。
「あ、あ…ッ、やめて、やめて…ッ」
ただ痛めつけられるだけの刺激に平山の性器は勃起していた。着衣を剥いで見なくともそこは興奮して先走りに濡れているのだろう。くちゅ、と湿った音が布 越しに聞き取れた。
顔を背けて固く目をつむっている平山の吐く息は熱い。
「変態に加えて淫乱か、救えねェ」
せわしない呼気を運ぶ喉をねっとり舐め上げて安岡がからかうと平山は感じ入ったように身震いした。あ、と溜息の様に声を漏らす。
ボタンの飛んで大きくはだけた胸元もしっとりと汗をかいて荒い呼吸に上下している。平山の肌は白く、滑らかだ。鎖骨の下からその胸まで下降して、安岡は 吸いつき舌を滑らせる。つんと立ち上がった突起を歯で挟み、粒を潰すように噛みつくと平山の背がびくりとしなった。
「ひッ…!痛、ぁ……っ!」
「良いんだろ、これが」
安岡に問われて平山は泣きそうな目をした。服の中で張り詰めた性器は膝でにじり擦られて射精感を高められる。
「ああぁっ…俺、もう…」
「お前はこうされるのが好きなんだろ」
少し声が大きくなって重ねて問われた。乱れた前髪を引き掴まれて俯いた顔を上げさせられる。乱暴にされて怯むように身を縮める癖に、平山は背中にぞくぞ くと快感が走るのを自覚せずにはいられなかった。
「いえ…、……はい…。そうです。」
「聞こえねえよ」
低く言い捨てられて平山の頬が赤く上気した。傷ついた様に目を伏せて目の淵に溜まる涙を堪えていたようだが、もう一度、前髪を引かれ催促されてやがて口 を開いた。
「あ、……好き、です…っ。もっと、酷くしてください…!」
震えた声でそう告げると安岡の太い指がようやく平山のスーツのベルトにかかって、平山は、嗚呼、嗚呼、と絶望とも悦楽ともつかない溜息を上げて目を閉じ た。
*
「親父がね、なんか…、酒飲みだったのかな…?よく殴られましたよ」
俺も、お袋も。と、窓際で情事の後の一服をふかしている安岡の背中に向けて平山は言った。いわれのない暴力や雑言は父親を思い出させるのだそうだ。安岡は 黙って視線だけを平山に向けた。
「でさ、そのくそ親父が、ひとしきり暴れた後にお袋と寝るんですよね。俺ね、正直お袋の気が知れないって思ってましたよ。なのにね。」
はは、と眉を下げて平山は笑った。赤から紫に変色しはじめた口の端の傷が寒々しい。
「俺マゾなのかなぁ…。」
良かったですよ、さっきのセックス。肩を竦めてくつくつと平山は自嘲気味に笑った。安岡は嫌気がさしたというようにがたつく窓を半分程開いて煙草のけむり と性の匂いを外へ放した。
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