血ってどうして赤色をしているのだろう。
もしも血液が明るいピンク色をしていたら重なり合って転がる死体の山にこんなにぎょっとしないで済んだ気がする。
食堂は血の海だった。
女の子たちが毎日清潔に保ってくれていた流し台は今は、ステンレスをピカピカに磨き上げてくれた彼女たち自身の流す血で真っ赤に汚されていた。
テーブルにも同様に重なる、死体。
どうしてこんなことをしてしまったんだ。もう動かないみんなを見下ろして幽霊みたいに立っている君に僕は振り絞るように声を掛けたんだ。石丸くん。
「石田って呼べよぉ、苗木!俺は石田って言うんだぜ!」
石丸くんじゃないと言い張る石丸くんはそう言って手にしたツルハシをぶんぶん振り回す。そうすると細い鉄の先からまだ乾いていない血の滴が僕に向かって飛んでくる。
凶器は植物園の倉庫にあったツルハシ。倉庫には誰でも自由に出入が出来たから多分それで君はみんなを殴り殺したんだ。僕を別にして一人残らず。どうしてか、僕を残して。
「どうしてこんなことをしてしまったんだ。…石田くん。」
僕が言い直すと石丸くんは引き攣れるように笑った。
「だってよぉ、だってよぉ?許せねぇだろぉ。ここにいるこいつらが、こいつらがキョウダイを死刑にしたんだ。俺はこの学園にいるやつを誰一人として許しちゃいねぇんだ!」
石丸くんの目は燃えていた。
この数日泣いて泣いて真っ赤になった石丸くんの大きな目は、今は憎しみでぎらぎら光って燃えているみたいだった。燃え盛る目で僕を睨む。
「最後の学級裁判が簡単でよかっただろ。俺がクロで他は全部死んじまったんだからよぉ。なぁ、苗木。俺を指名したらお前は生き残るんだな。」
「石丸…石田くんは、僕を、生き残らせたかったの?」
僕は驚いてまじまじと石丸くんを見詰めてしまった。大和田くんの、嘘を暴いたのは僕だった。僕が一番大和田君を追い詰めたかもしれないのに。
僕が石丸くんに訊ねると石丸くんは一瞬泣きそうな目をしたようだった。
当たり前だろぉ、って呟いた声の語尾が掠れる。
「俺はお前を一番許してねぇんだぜ。」
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進め 純粋無垢な憎悪の塊/市場(peple in the box)
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